■世界の伝統医学
世界各地にはそれぞれ固有の伝統医学(traditional medicine)があります。伝統医学に対する明確な定義はなされていませんが、自然科学的手法や概念に基づく医学以外の、各地の文化に根ざし、古い歴史をもつ医学と考えて差し支えないでしょう。一定の規模をもつ人間社会では必ず固有の医学があり、特色ある診断法、治療法、予防法が構築され、一つの民族医学(folk medicine)が形成されています。この中には漢方医学のように明確な体系をもつものから、非体系的かつ経験的な民間療法まで様々な形態の医学が含まれています。有史以来、様々な文明、文化が勃興してきたこの地球上に非常に多くの民族医学・伝統医学があるのは歴史的必然ともいえるでしょう。今日では世界のいずれの国も”西洋医学”を正規の医学(official medicine)としていますが、西洋医学自体、古代ギリシア医学の流れをくむ欧州の伝統医学から近代科学を取り入れて発展したものです。しかし、多くの致命的感染症の治療に見られるように西洋医学の成果があまりにも強烈であったため、世界いずれの地域でも固有の伝統医学を飛び越えて西洋医学を導入した結果、近代科学の画期的な手法を取り入れて発展する機会を失ってしまったといってよいでしょう。それが逆に各地の伝統医学で旧来の治療法を保存させることとなり、今日では改めてその良さを見直そうという機運に発展しています。伝統医学と近代西洋医学の間でもっとも顕著な相違は「使用する薬」にあります。前者は専ら生薬を用いるのに対し、後者では生薬の使用には消極的であって、ほとんどの場合、精製した薬効成分あるいはそれから創製したもののみを用います。中国やインドで発達したような高度に体系化された伝統医学では、生薬は”単なる天然素材の薬物”ではなく薬効を高めたり毒性を軽減するため様々な工夫がなされています。今日では伝統医学のすぐれた部分と西洋医学との統合が試みられています。

■タイ伝統医学における病気の原因
1、ソムットターン(タイ伝統医学における宇宙の構成要素)
2、ウトゥ・ソムットターン(季節、気候)
3、アユ・ソムットターン(年代)
4、プラテート・ソムットターン(土地)
5、ガーン・ソムットターン(時間)
6、ロークグート(生活習慣)
■タイ伝統医学における宇宙の構成要素である「タート」「ソムットターン」
タイ古式マッサージは、古代インド医学であるアーユルヴェーダの影響を強く受けています。アーユルヴェーダでは、宇宙の構成要素を5つ(空・風・火・水・土)に分けているのに対し、タイ伝統医学では(土、水、風、火)の4つに分類しています。そして宇宙と人間の体はそれぞれが分離しているわけではなく、相対関係にあるという認識に立っているので、人体もまた4要素で成り立っていると考えられています。これらの4大要素をタートまたはソムットターンといいます。「土」は体の20器官を構成し、「水」は体内を流れる12の液体を作り出し、「風」は体の6つの動きを織り成し、そして「火」は体の4つの熱を生成すると考えられています。 これらの4つの要素が良いバランスを保っているとき、身体は正常に機能します。また、これらの4つの要素のうち、ひとつだけが突出して目立つもので、これを「ジャオルアン」といいます。「ジャオルアン」は、母親の胎内にいるときに決まるもので、通常6歳までは変化しないといわれています。その後の育ち方や環境、食生活で変化することもあります。これらのバランスが崩れることで病気の原因になると考えられており、それぞれの人に違った性格や性質があるように、ひとりひとりに体質が区分されます。自分自身の体質を知っておくとよいでしょう。
1、タート・ディン
「土」
の要素で燃やすと土に返る性質を持つものをさします。
□「土」が構成する20の器官
髪、毛、爪、歯、皮膚、筋肉、靭帯、骨、骨髄、脾臓、心臓、肝臓、筋膜、腎臓、肺臓、大腸、小腸
新しく食べた物、古い食べ物、脳、脊髄
□ジャオルアンが「土」の場合
体格は大きく、肌はやや黒く、髪は多く黒い。声は大きくよく通り、骨は丈夫で太い。体重は重く、肥えていて頑丈で、各器官も健康である。
2、タート・ナーム
「水」
の要素で流れたり浸透したりする性質を持つものをさします。
□「水」が構成する12の液体
血液、汗、胆汁、痰、膿、涙、リンパ液、脂肪、唾液、尿、鼻水、滑液
□ジャオルアンが「水」の場合
身体や身体の各器官は健康で、スタイルが良く、肌ははりがあって明るい。
目がきれいで涙が多く、歩き方のバランスがよい。髪は美しく、量が多い。食事や行動はゆっくりしていて、飢え、寒さ、暑さに我慢強い。声がよく通り、性欲が強く子供が多い。消極的で怠惰な部分がある。
3、タート・ロム
「風」
の要素で動くことができる軽い性質を持つものをさします。
□「風」が構成する6つの動作
頭から足への風(動き)、足から頭への風(動き)、腹の中の風(動き)、胃や腸の中の風(動き)、血液の風(動き)、呼吸の風(動き)
□ジャオルアンが「風」の場合
乾燥肌でかさつきやすく、痩せ型。髪は薄く、関節は動かすと音を立てる。臆病で嫉妬心が強い。熱しやすく冷めやすい。寒さに弱く、不眠がち。おしゃべりだが声は低く不明瞭。性欲は淡白で子供が少ない。
4、タート・ファイ
「火」
の要素で燃焼して熱を発生させる性質を持つものをさします。
□「火」が構成する4つの熱
体温の火(熱)、高熱の火(熱)、老化の火(熱)、消化の火(熱)
□ジャオルアンが「火」の場合
髪、体毛、ひげはやわらかく、若くして白髪になりやすい。お腹が空いて食欲が旺盛。暑さに弱く、忍耐力にかけ、せっかち。関節のしまりが悪く、口臭や体臭が強い。性欲は中程度。
■季節や気候が病気の原因となる「ウトゥ・ソムットターン」
季節が変わると、気温や湿度、風、気圧などが変化し、人間の身体はその環境へと適応しなければなりません。しかし、もしうまく適応できなければ、バランスを崩し病気になってしまいます。特に季節の変わり目にはバランスを崩しやすいものです。時季を「ルドゥー」といいますが、1年間を3分割してそれぞれのルドゥーごとの特徴があります。
1、キムハ・ルドゥー(4月後半〜8月前半)
夏季を意味するキムハ・ルドゥーでは、ソムット・ターンが暑い気候に対応することで身体を維持しています。暑いのに慣れている身体ですが、時折雨などで寒さを感じる時があります。こういう時には、「火」(タート・ファイ)が病気の基本原因となります。
2、ワッサン・ルドゥー(8月後半〜12月前半)
雨季を意味するワッサン・ルドゥーでは、ソムット・ターンが湿度に対応することで身体を維持しています。湿度が高い時季にも、時折暑さと寒さが混じることがあります。こういう時には、「風」(タート・ロム)が病気の基本原因となります。
3、ヘーマン・ルドーゥー(12月後半〜4月前半)
冬季を意味するヘーマン・ルドゥーでは、ソムット・ターンが寒さに対応することで身体を維持しています。この時期に暑さや寒さを感じることがあります。こういう時には「水」(タート・ナーム)が病気の基本原因となります。
■年齢が病気の原因となる「アユ・ソムットターン」
アユ・ソムットターンでは、人間の年齢を3つに分けて考えています。
1、パトム・ワイ(0歳〜16歳)
幼年期には「水」
(タート・ナーム)が病気の基本原因となります。
2、マッチマ・ワイ(16歳〜32歳)
壮年期には「火」(タート・ファイ)が病気の基本原因となります。
3、パッチム・ワイ(32歳〜)
老年期には「風」
(タート・ロム)が病気の基本原因となります。
■住む場所や風土が病気の原因となるプラテート・ソムットターン
人は生まれた土地の影響を受けているという考え方です。それぞれの気候に慣れ親しんだソムット・ターンがあるため、引越しなどで違った環境で生活するようになると、病気の原因となる場合があります。
1、プラテート・ローン(暑い土地の意味)
山岳民族など高地に生まれた人は「火」(タート・ファイ)が病気の基本原因となります。
2、プラテート・ウン(温かい土地の意味)
砂混じりの水のある場所に生まれた人は「水」(タート・ナーム)が病気の基本原因となります。
3、プラテート・イェン(涼しい土地の意味)
雨が多い湿地帯に生まれた人は「風」
(タート・ロム)が病気の基本原因となります。
4、プラテート・ナーウ(寒い土地の意味)
海辺に近い湿地帯に生まれた人は「地」
(タート・ディン)が病気の基本原因となります。
■時間による起こる病気の原因となる「ガーン・ソムットターン」
1日の中の時間帯によっても生じる病気に特徴があります。これは、身体のソムット・ターンが変化しているためであると考えられています。
1、6時〜10時、18時〜22時に増大する「水」(タート・ナーム)
鼻水が出たり、下痢をするなど
2、10時〜14時、22時〜2時に増大する「火」(タート・ファイ)
発熱や腹痛など
3、14時〜18時、2時〜6時に増大する「風」(タート・ロム)
めまい、倦怠感、疲労など
■ 生活習慣が原因となる8項目「ロークグート」
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